グローバリゼーションによって高度情報通信社会へと進歩を遂げた今日、企業や事業者といった法人組織によるマーケティング競争はオンラインへと舞台を移しました。
激化する競争の中で、高い集客効果が期待できる「オウンドメディア」に注目が集まっています。本記事では、オウンドメディアの定義やメリットについて、成功事例と共に解説します。
オウンドメディアとは何か?その定義について解説
「オウンドメディア(Owned Media)」とは、企業などの法人組織が自ら保有しているメディアの総称です。
「ペイドメディア」「アーンドメディア」に並ぶ広報メディア(トリプルメディアと呼ばれます)の一つで、自社発行の広報誌やパンフレット、公式ウェブサイトなど消費者(ユーザー)に向けて情報を発信する媒体を指しますが、マーケティング業界では企業の宣伝を行う集客メディアを意味しています。
ユーザーに対して宣伝・情報発信をするメディア
オウンドメディアが担う本来の役割は、先述のようにユーザーへ向けた企業の宣伝・情報発信です。しかし、マーケティング目的で運用される場合、消費者の興味・関心や購買意欲を引き出す為のアプローチ手法として扱われます。
インターネットの拡散力を利用することで、より広範に宣伝を行うことができ、顧客(リード)獲得やユーザー教育へと繋げることが可能です。また、検索エンジンの順位を上げるためのSEOとも深い繋がりがあります。
コンテンツを通してユーザーを引き込むことがゴール
マーケティング戦略におけるオウンドメディアの目的は、コンテンツを通して企業と消費者を引き合わせ、最終的に「顧客(ユーザー)」として引き込むことです。
オンラインショップの利用者増加や企業・商品の知名度上昇を最終目標に、消費者の集客とユーザーの定着を目指す、これがオウンドメディア運用の狙いとなります。
SNSも立派なオウンドメディア
近年、企業アカウントとして、さまざっまな企業がSNSアカウントを運用しています。この企業のSNSも立派なオウンドメディアの一つです。
ウェブサイトのオウンドメディアとは異なり、低コストで自社のメディアを持てるだけでなく、シェアやいいねなどで、認知拡大を広げやすいため参入のハードルも低いことから注目を集めています。
なぜオウンドメディアの注目が高まっているのか?
企業の集客を担うトリプルメディアのうち、なぜオウンドメディアがこれほどまでに企業の注目を浴びているのでしょうか。
記事の「資産性」
オウンドメディアは自社のノウハウを記事として公開し、これまで接点のなかった消費者(ユーザー)に情報を与えることで繋がりを持ち、自社の商材・サービスへと誘導していきます。
この消費者(ユーザー)の大半は検索エンジンやSNSから流入してきますが、記事は一度公開してしまえば半永久的に検索エンジンやSNSから自動で消費者(ユーザー)を連れて来てくれます。
そのため、オウンドメディアは資産となるのです。
ネット広告は広告費を支払い、広告が掲出されたあとは再び広告費を支払う必要があります。しかし、オウンドメディアは一度公開してしまえば(記事自体の情報鮮度は下がりますが)継続的に集客エンジンとなってくれるのです。
高まる企業ブログの価値
Googleは『検索品質評価ガイドライン』というドキュメントを公開しています。そのなかに「ページ品質評価の最重要項目」という下記3つの項目があり、検索順位を決定するための重要基準であると公表しています。
- Expertise(専門性)
- Authoritativeness(権威性)
- Trustworthiness(信頼性)
企業ブログは個人ブログと比べ、上記3つの項目を満たしている可能性が高く、近年では個人ブログ(いわゆるアフィリエイトブログ)の順位が下がり、企業ブログの順位が上昇する傾向が強くなっています。
当然ですが企業ブログは企業のいわゆるコーポーレートサイトと繋がりを持ち、ほとんどの場合、住所や代表者名まで公開されています(信頼性)。
そしてその分野に対して専門知識を持ち(専門性)、業界内で周囲の評価も高いはずです(権威性)。当然、匿名性の高い個人ブログよりも、企業ブログはSEOの観点から「強い」といえるでしょう。
押さえておきたい!オウンドメディア運用のメリットとデメリット
集客において有効な施策であるオウンドメディアですが、メリットばかりではなく運用上のリスクやデメリットも伴います。どのようなメリット・デメリットがあるのかを解説します。
メリット「コンテンツコントロールによる自主性の向上」
オウンドメディアにおける最大のメリットは、「自社コンテンツ」という大きな武器を入手できる点です。
自社でのコンテンツ運用は、ターゲットの指定や新規ユーザーへのアプローチが容易になるだけでなく、ブランディングによるユーザー教育にも繋げることが出来ます。
さらに、広告宣伝費などのコストを削減できるため、予算を他に回すことも可能となり、事業成長の促進効果も期待できます。
また、先に述べたように記事には「資産性」があり、将来に渡って利益をもたらします。
デメリット「長期的なマーケティング戦略になりがちなこと」
オウンドメディアのデメリットは、「マーケティング効果が発揮されるまでとても時間がかかる」という点です。
広告メディアのように、公開後すぐに閲覧数を伸ばせるような即効性がありません。これはGoogleからサイトが評価を受けるまで時間がかかり、近年では競争は激化してあらゆる分野がレッドオーシャン化しており、検索順位がなかなか上がらないためです。
その間、ターゲットのニーズに合わせたコンテンツ開発を継続的に行う必要があり、成果が出るまで忍耐強く運営する必要があります。
また、コンテンツ開発にかかるコストも決して安くありません。外部ライターに委託し、記事を制作することも可能ですが、品質を担保する必要があり、特に専門的な分野では費用も高価になりがちです。また、自社でしか持っていないノウハウは外部ライターには書けず、独自性のある記事は簡単には完成しません。
理想は自社内で専属のスタッフを配置し、記事を書き上げることですが、SEOの知識があってサイト運営もできてライティングも出来るスタッフはまず存在せず、中々実現しません。
社員に持ち回りでブログを書かせようと経営者主導でオウンドメディアを開始するケースがありますが、モチベーションが保てず閉鎖してしまうケースをよく見かけます。
オウンドメディアを運用する上で必要なポイント3つ
オウンドメディアは確かに効果的なマーケティング施策ですが、決して万能ではありません。オウンドメディアのコンテンツ運用を最大限に活かしたいのであれば、以下のポイント3つを頭に入れておきましょう。
1. 「目標達成の手段」として運用すること
オウンドメディアはリード獲得やユーザー教育を目的とした「目標達成の手段」であり、平均PVの増加や広告費削減に”直接”繋がる訳ではありません。
あくまでも、コンテンツマーケティング戦略の一つでしかないので、まずは明確な目的とコンセプトを決定してから運用しましょう。
2. ターゲットのニーズは常に把握しておくこと
オウンドメディアの役割は、ターゲットとなる消費者・ユーザーへ向けた情報配信であり、公式サイトへ誘導する動線として機能することです。
ターゲットが何を求めているのか、またどのような悩み・問題を抱えているのか、消費者側のニーズを的確に捉えてコンテンツ配信を行いましょう。
3.ユーザーのためのコンテンツ制作を意識すること
ユーザーは情報収集や問題解決を目的に公式サイトにアクセスしてきます。
自社の商品・サービスの売り込みばかりが書かれているサイトは、まず評価されないと思いましょう。
企業の営業アピールとして利用するのではなく、「ユーザーへの情報提供コンテンツ」であることを意識することが大事です。
オウンドメディアの始め方・作り方を解説
オウンドメディアをどうスタートすればいいのか、悩んでいる方へ向けて具体的なステップを解説していきます。
ペルソナを設定
まずは、ペルソナを設定します。ペルソナとは、ターゲットよりもさらに細かく人物像を設定したものです。
ターゲットは、「性別」「年代」「居住地」などおおまかな枠組みで設定するのに対し、ペルソナは上記のほか「興味関心」「家族構成」「休日の過ごし方」「趣味」なども設定することが多いです。
また、自社サービスと絡めてペルソナを設定するケースもあります。たとえば、「子どもの教育」に関するコンテンツであれば、「子どもを持つ母」といった人物像の他「子供に対してどの程度教育に力を注いでいるか」「どれくらいの教育費をかけているのか」「どのような進路を理想として考えているのか」なども盛り込むことになるでしょう。
サイトコンセプトの設定
サイトコンセプトは、前項で設定したペルソナに沿って決定する必要があります。
「誰に対して」「どのような情報を発信するのか」を明確にできれば、おのずとサイトのコンセプトが見えてくるはずです。
サイトコンセプトは、なるべく具体的な内容で設定することをおすすめします。漠然としたコンセプトでは、ニーズに応えにくくなってしまうため注意しましょう。
メディアの基盤を確定
オウンドメディアを作成するにあたって、ウェブサイトの構築を検討している方は、配信基盤を確定する必要があります。
自社の配信サイトがないと、そもそも情報を発信することができません。そのうえ、配信サイトを設けるためには、「どこのCMSを使えばいいのか」「MAは何を選ぶのか」「メールなどの配信ツールは何を導入するのか」などを考える必要があります。
とくに、BtoB分野のオウンドメディアは、商談や営業と連携するためにも、上記は慎重に判断しなければなりません。
サイトの制作
メディアの配信基盤まで確定できたら、サイトの制作にうつります。
サイトの制作は、コーディングやwebデザイン、プログラムなどさまざまな領域の人材と連携する必要があります。社内でリソースが足りない場合や、知識の豊富な人材が確保できないときには、外部の制作会社に委託することがおすすめです。
サイトの品質は、ユーザーの満足度につながり、リピート訪問につながるか否かといった点に影響します。ひいては、企業の売り上げ貢献につながる部分であるため、品質を重視したうえで、サイトの制作方法を計画してください。
なお、サイト制作の外注を検討している方は、以下の記事もぜひ参考にしてみてください。
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コンテンツの制作
オウンドメディアとして使うサイトが完成した後、もしくはサイト開発と同時進行でコンテンツの制作を行います。
自社が発信したい内容をペルソナに向けて丁寧に作成していくことが重要です。とはいえ、単純に「発信したい内容を一方的に公開し続ける」といったスタイルはおすすめできません。
あくまでも「求められている情報」を探り、ニーズに沿ったコンテンツを作成することがオウンドメディアにおける基本です。ニーズを探るためには、アクセス解析ツールやキーワード関連の調査ツールなどを活用することが一般的です。
ほかにも、競合のコンテンツを参考にすることも可能なので、さまざまな方法でニーズを探り、ニーズにマッチするコンテンツ案を模索していきましょう。
効果測定
配信したコンテンツは、定期的に効果測定してチェックする必要があります。
配信したコンテンツのクリック率やPV(ページビュー)、CV(コンバージョン)などは最低限確認しておきたい部分です。
仮にクリック率やPVが低いようであれば、ユーザーが興味を抱きにくいタイトルである可能性ありますし、そもそも検索エンジンの上位に表示されておらず認知されにくい状況に陥っている場合があります。
また、CV(「お問い合わせはコチラ」などのボタンのクリック)が少ない場合は、ボタンのデザインが魅力的でなかったり、唐突なセールス感がユーザーの離脱を招いたりしていることがあります。
ABテストを実施するなど、さまざまな対策を行いながら、現状の課題を抽出していきましょう。
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PDCAをまわす
効果測定のプロセスで把握できた課題は、きちんと改善していくことが重要です。
PDCAをまわしながら、常にコンテンツやサイト内をブラッシュアップしていくことで、よりユーザーのニーズにマッチさせたオウンドメディアの運用につながります。
オウンドメディアは、基本的に「作って終わり」ではありません。定期的に見直しを行い、改良を続けていくことがオウンドメディアの成功の秘訣です。
オウンドメディアの成功事例1「リード獲得」
SEO戦略を盛り込んだ記事コンテンツ展開によるユーザー誘導、オンライン・マーケティングの導入による集客力アップなどを駆使した成功事例です。
記事コンテンツの集客力はオウンドメディアの中でも群を抜き、公式ウェブサイトのPV数増加やCPA(顧客獲得単価)の改善など、様々なマーケティング成功結果を出しています。
1. 資生堂「watashi+」
化粧品の製造・販売などを手掛ける「資生堂」が運営している、美容関係の情報を発信しているECサイトです。記事中に「肌荒れ」「ニキビ」といったキーワードを配置してユーザー誘導を狙い、美容の悩み・問題について予防法・対策法を提示することで、美容品を利用するユーザーの新機獲得に成功しています。
記事コンテンツの誘導効果は凄まじく、公式サイトの月間平均閲覧数を約500万PVまで押し上げました。
2. 株式会社デジタルスタジオ「Live Commerce」
海外企業向けのEC構築プラットフォーム提供を主事業としたITサービス企業です。企業の専用ブログ「Live Commerce」は、認知度の低いサービスの見込みユーザーをターゲットに、「ECサイト運営のノウハウ」などニーズに対応した記事で集客し、更にメルマガ購読やサービス試用などのアプローチを行う構成となっています。
結果、広告の依存度低下に成功しCPA(顧客獲得単価)の改善に繋げています。
オウンドメディアの成功事例2「人材採用メディア」
オウンドメディアの誘導力は、企業の採用活動にも多大な影響を与えます。例えば、オウンドメディア上で求人を行えば、より具体的な企業情報の提供ができる上に、上手く運用すればより多くの応募者を集めることも可能です。
公式サイトの誘導力と広報力は、企業とユーザーのマッチングにも繋がり、企業と応募者のミスマッチも回避できます。
1. LINE「LINE HR BLOG」
LINEは「NHN Japan株式会社」が開発したSNS、または同サービスにおけるソフトウェア・アプリの総称です。「LINE HR BLOG」はLINEのサービス内で運営されている人材採用メディアであり、社内の取り組みや働き方を詳細に伝えることで、応募者への企業アピールに一役買っています。
現場スタッフによる企業紹介の具体性や、ターゲットに的確な企業情報を伝達できる正確性が特徴で、閲覧数は月平均5千PV程度ながら人気の高い広報メディアです。
2.株式会社サイダス「CYDAS.com」
社員参加型のプラットフォーム運用を行っている企業です。競合他社に比べると広報力・広告力に乏しく、その打開策としてコンテンツマーケティングを導入し、オウンドメディア経由のユーザー誘導に成功しました。
独自の人材プラットフォーム「CYDAS.com」を展開し、積極的なコンテンツ発信とユーザーのニーズ対応に働きかけ、外部メディアにおける資料ダウンロード数を上位に引き上げるという結果を残しています。
オウンドメディアの成功事例3「ブランディング」
「ブランディング」とは、企業独自の「ブランド」を形成するための広報活動を指す言葉です。
キャッチフレーズやウェブデザインなど、ユーザーに企業独自のコンテンツを印象づけてもらう「ユーザー教育」を目的とした活動を紹介します。
1. 株式会社ガイアックス「ソーシャルメディアラボ」
企業のソーシャルメディア運用をサポートする会社です。ブランディングの一環として、ソーシャルメディア・マーケティングの情報提供メディア「ソーシャルメディアラボ」を発信しています。
企業の目的達成を目指すSNSプラットフォームの運用方法など、ソーシャルメディア活用のノウハウ紹介が主な内容で、FacebookやTwitter、Instagramなど様々なSNSの情報が充実しており、自社の事業展開に上手く繋げています。
2. レッドブル・ジャパン株式会社「Red Bull」
メインプロダクトであるエナジードリンクを始め、スポーツやミュージックなど幅広い事業展開を行っている企業です。同社が出資するエンターテインメントの情報発信メディア「Red Bull」を配信しており、アスリートなどのアクティブなユーザーに向けて、高クオリティのコンテンツを提供しています。
なお、Red Bullは敢えてメインプロダクトの話題を避けて他社との競合を減らし、ターゲットを的確に誘導するという手法をとっており、確実に自社のブランディングへと繋げています。
オウンドメディア活用のキモは「コンテンツ作成」にある
オウンドメディアを成功させる鍵は、コンテンツが持つ「集客力」と「誘導力」にあります。
マーケティングコンテンツ作成を請け負うWeb制作会社の急増により、オウンドメディアを武器にした企業競争はますます激化の一途を辿っています。
如何にして新規ユーザーを引き込むのか、ターゲットが求めているコンテンツは何なのか、入念なリサーチとプランニングを行ってメディアを構築することが重要です。